川崎(じもと)の弁護士 伊藤諭 です。

Aさんには,3人の子どもがいます。

Aさんは長男であるBさんをとくにかわいがり,自分の財産をすべてこのBさんにに与えたいと思って「私の遺産はすべてBに相続させる」という遺言を残しました。Bさんの子供(Aさんの孫)Eちゃんも,Aさんにとっては目の中に入れても痛くない存在です。

AさんはこれですべてBさんの家系に財産を引き継ぐことができると思ってました。

ところが,残念なことに,Aさんより先に,Bさんが先に亡くなってしまいました。
ほどなくして,後を追うように,Aさんも亡くなりました。

スライド1

Eさんは法律上,Bさんが相続できた分についてAさんの相続人となります(代襲相続人)。

Aさんの遺産相続において,Eさんは,Aさんの遺言により,Bさんが取得していたはずの遺産すべてを相続したと主張します。

他方,CさんとDさんは,Bさんが亡くなった時点で,遺言は無効だとして,法定相続分(3分の1ずつ)の割合による相続を主張しています。

どちらの主張が通ったのでしょうか?

最高裁判所平成23年2月22日判決は次のように述べています。

上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び 遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。 

ようするに,遺言書の内容や,その作成当時の事情などから,Bさんが先に死亡したらEさんに相続させるといったAさんの考えが読み取れなければ,Bさんが死亡した時点でその条項の効力はなくなります,ということです。

では,Aさんは,自分より先にBさんが死亡した場合にはEさんに相続させたいと考えていた場合,どうすればよかったのでしょうか。

いちばん確実なのは,「もし私の死亡する以前にBが死亡していた場合は,私の遺産すべてをEに相続させる。」と遺言に書いておくことでしょう。

遺言というのは,書いたあとその効力が発生するまでに長期間かかるのが普通です。それまでに思いもよらない事情の変化があるものですので,一度遺言を書いたとしても安心せず,定期的に見直しましょう。

なお,この記事においては説明のため,遺留分については考えておりません。