川崎(じもと)の弁護士 伊藤諭 です。
今日は,親孝行のつもりで父の遺産を母に取得させたところ,相続税が数百万円も跳ね上がってしまった,ということが起こるかもしれませんという話です。
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報道などでも周知の通り,平成27年1月1日以降に発生した相続(平成27年1月1日以降になくなった人の相続)に関して,改正された相続税法が適用になります。
1 改正の内容
●基礎控除額の縮小 = 相続税がかかる人が大幅増!
【現行】
5000万円+(法定相続人の数)×1000万円
【改正後】
3000万円+(法定相続人の数)×600万円
最も大きな改正のポイントがココです。
相続税は,遺産総額(厳密には異なりますが,説明の便宜上こう表現します。)から基礎控除額を引いたものを基準に計算します。
つまり,遺産総額が基礎控除額を下回っていれば,そもそも相続税がかからないことになります。
この基礎控除額が減るということは,相続税がかかるケースが増えるということです。
例えば,被相続人(なくなった人)の法定相続人が,妻,子供2人だった場合,
現行では,
5000万円+3人×1000万円=8000万円
の遺産がなければそもそも相続税は発生しません。
しかし,改正後は
3000万円+3人×600万円=4800万円
の遺産があれば,相続税発生の可能性があります。相続税申告の必要も出てきます。
これまで,相続税は一握りのお金持ちだけの問題という意識がありましたが,これからは普通に生活して財産を作った方たちにも影響があるということです。
●最高税率の引き上げ
これまでは,遺産を相続分で分けた後の法定相続人の取得金額が3億円を超える方は,一定の控除額(4700万円)を控除した後に50%の税率が課されていました。
改正後は,その中でもさらに6億円を超える方には,一定の控除額(7200万円)を控除した後に55%の税率が課されることになります。
また,他にも2億円超3億円以下の方も従前の基準から引き上げになります。
その他,小規模宅地の特例の改正や未成年者控除,障害者控除などの改正があります(こちらは緩和の方向)。
2 今の相続には関係ないか?
冒頭で説明したとおり,改正相続税法が適用になるのは,平成27年1月1日以降に発生した相続の場合です。
では,それ以前に亡くなった方の相続においては全く無関係か,というと決してそんなことはありません。
将来的に二次相続が見込まれる場合,この改正を見込んで遺産分割をしておかなければ,将来的に余分な税金を支払うことになってしまいます。
●親孝行が不利益に!
例えば,
Aさん(平成25年5月20日死亡)には,妻Bさん,子供CさんDさんがいたとします。
つまり,Aさんの法定相続人は,B,C,Dさんの3人です。
Aさんには遺産が6000万円ありました。
現行法の基礎控除は,5000万円+3人×1000万円=8000万円ですから,Aさんの相続について相続税はかかりません。
法定相続分はB 3000万円,C,Dそれぞれ1500万円ですが,遺産分割協議で相続人全員の同意があればいかようにでも分けられます。
Cさん,Dさんはこれまで育ててもらった感謝の気持ちとして母であるBさんにすべて遺産を取得してもらう内容を提案し,Bさんもこれを受け入れて,遺産分割協議をしました。
Bさんにはもともと1000万円の財産があり,Aさんの遺産を合わせて7000万円の資産を持つことになりました。
Bさんはもともと質素な暮らしをしており,年金だけで十分な生活ができていました。Aさんの遺産は子供たちのために使わずに残してやるのが,子供たちへの恩返しだと思っていました。
Bさんは,平成27年1月2日,CさんDさんに見守られながら,息を引き取りました。
Bさんは,7000万円の遺産を残しておりました。
Cさん,Dさんは法定相続分通り,3500万円ずつ分けることにしました。
さて,CさんDさんがそれぞれ支払う相続税は
7000万円ー4200万円(基礎控除額)=2800万円
2800万円×法定相続分1/2=1400万円
1400万円×15%-50万円=160万円
つまり,2人で320万円の相続税を支払うことになりました(説明の便宜のため諸控除等は除外しておりますので実際の計算とは異なります。)。
●どうすればよかったか?
では,Aさんの相続の際,法定相続分通り分けていればどうなっていたでしょうか。
【Aさんの分割】
Aさんの遺産は 6000万円
Bさんの相続分 3000万円
C,Dさんの相続分 1500万円
もちろん相続税0円
【Bさんの分割】
上の例と同じ条件で,Bさんの財産に変動がないとすると,
Bさんの遺産 4000万円(Aさんの相続分3000万円と元々の財産1000万円)
基礎控除額 3000万円+2人×600万円=4200万円
Bさんの遺産は基礎控除額に満たないので課税されない。
したがって相続税0円
このように,最終的にCさんDさんが取得する金額が同じだったとしても,Aさんの遺産分割の方法次第で,相続税の金額が大きく異なるのです。
相続は,親族間でもめていなかったとしても,やはり一度専門家に相談されることをお勧めします。
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