川崎(じもと)の弁護士 伊藤諭 です。
3月に北海道湧別町で起こった地吹雪による父娘遭難事件は,大変衝撃的で痛ましい記憶として残っています。
この事件に絡み,本日次のような記事が掲載されました。
娘守った父の犠牲を教訓に 携帯位置情報、提供ルール化
この記事によると,消防から位置情報の照会を受けたNTTドコモが「捜査権がない消防には提供できない。警察を通して欲しい」などと,門前払いをしていたとのことです。その上で,こうした事態を防ぐために,位置情報をすみやかに伝えるルールを作り,全国の消防本部と携帯各社に通知したと結んでおります。
仮にこの記事が正しいとすると,この事件当時のNTTドコモの対応は,個人情報保護法の観点から明らかに間違いです。
現行の個人情報保護法においても,NTTドコモは個人の位置情報を消防に提供できるし,公益的な観点や人道的観点から速やかに提供するべきであったと考えます。
携帯電話会社が持っている契約者の位置情報は,個人情報にあたります
したがって,これを第三者に提供するには,原則として契約者の同意が必要になります。
しかしながら,法律上(個人情報保護法第23条),
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一  法令に基づく場合
二  人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三  公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四  国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
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のいずれかにあたる場合は,同意なく第三者に提供することが可能なのです。
NTTドコモは,捜査上の必要性があればこの四号にあたるという認識で,警察を通してくれという回答をしたのでしょう。
しかし,わざわざ四号にあたる事情がなくとも,消防からの要請はそれ自体が,上の二号人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。)にあたることは明らかです。
したがって,携帯電話会社としては,速やかに位置情報を消防に提供することは法律上なんの問題もなかったはずなのです。
携帯電話会社が,個人情報保護に関するこのような基本的な理解に欠けていなければ,お父さんの命を救えたのかもしれないとおもうと,心が痛みます。
個人情報保護法が施行されたとき,個人情報の過保護事案ということが問題になりました。
自治体などでは,こうした誤解を解くために啓蒙活動などを行っています。
必要な個人情報まで「過保護」にしていませんか?個人情報の … – 相模原市
東日本大震災の際には,テレビで避難所に避難されている方の個人情報を流していました。このように法律の趣旨に基づいた提供の仕方をしていたことを覚えています。
個人情報保護法の理解はある程度高まったと思っていたのですが,今回のような痛ましい事件の背景に,本来精通するべき通信事業者の無理解があったことは大変残念です。

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