エイプリルフールに気の利いたことを書くのを忘れて4月2日になってしまいました。

理系は「悪意」の意味が分かっていない?

そんな中、ブロゴスにこんな記事がアップされてました。

理系は「悪意」の意味が分かっていない!(STAP論争)

 つまり、彼女はこの「悪意」を一般的な意味で理解しているのです。日常的に使われる「悪意」という意味で。具体的に言えば、自己の研究成果を、事実とは反して真正なものと信じ込ませるために行ったような場合でなければ「悪意」はない、と。

簡単に言えば、他人を騙すような目的がなければ「悪意」があるとは言えない、と彼女は考えているのでしょう。一方、彼女は、STAP細胞の存在を本当に信じており、だから、論文に掲載した写真が、実際の実験の結果を写したものでなくても、それがそんなに重大なことなのか、と言いたいのだと思うのです。

しかし、そもそもこうした規定や法律などで使われる「悪意」は、法律用語として解釈しなければいけません。

そして、法律用語としての「悪意」には、何ら倫理的な意味合いは含まれていないのです。。法律用語として「悪意」とともに、「善意」という言葉も使われますが、これにも倫理的な意味は含まれません。行為者が、ある事実について知っているか、知らないかを示すのが、「悪意」であり「善意」であるのです。従って、例えば、結果的に、誰かの論文を無断で引用したような場合、当該文章が他人の文章であることを知らずに、結果として無断引用してしまった場合などには「悪意」には該当しないのですが、しかし、それが他人の文章であるのを知っていて無断引用してしまえば、格別誰かを騙す意図がなくても、「悪意」として認定されてしまうのです。

この人は、「悪意」の意味を「法律用語」として解釈するべきで、そこに倫理的な意味は含まれないと言っています。

法律上「悪意」に倫理的な意味が含まれることはある

確かに財産法上、「知っていること」を「悪意」、「知らないこと」を「善意」という場合がありますが、今回の文脈でそうした定義は当てはまりません。

そのような意味であれば「善意の間違い」と書くべきで(これでも違和感があります)、「悪意のない」を「知らないこと」と解釈する法律用語を私は知りません。(回りくどい表現になった(^_^;

法律上「悪意」という用語が用いられていたとしても、そこに倫理的な意味をもつ場合は珍しくありません。

典型的には、裁判上の離婚原因である「悪意の遺棄」(民法770条)があります。

(裁判上の離婚)
第七百七十条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。
(以下略)

この場合の「悪意」とは単に「知っている」というだけでなく、倫理的な意味を含んだ一般的な用語に近い用法です。「害意」と言い換えてもいいかもしれません。

このように、少し法律を聞きかじった程度の大学生がいうような意見をメディアに載せちゃうのは違和感があります。

「悪意のない間違い」の解釈

規定の仕方

ここに引用されている「科学研究上の不正行為の防止等に関する規程」についてみてみたいとおもいます。

研究論文の疑義に関する調査報告書 – 理化学研究所

(定義)
第2条
2 この規程において「研究不正」とは、研究者等が研究活動を行う場合における次の各号に掲げる行為をいう。ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は含まないものとする。
(1)捏造 データや研究結果を作り上げ、これを記録または報告すること。
(2)改ざん 研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。
(3)盗用 他人の考え、作業内容、研究結果や文章を、適切な引用表記をせずに使用すること。

この定義規定によると、「捏造」「改ざん」「盗用」の定義には当たったとしても、「悪意のない間違い及び意見の相違」については「研究不正」から除外しましょう、という書き方になっています。
さらにいうと、「悪意のない間違い(及び意見の相違)」の立証責任は、これを主張する側(今回で言えば小保方さん側)にあると解釈するのが自然な規定の仕方です。

「悪意のない間違い」

さて、(意見の相違については今回はおくとして)「悪意のない間違い」とはどういう意味でしょうか。

いわゆる「過失」(うっかりミス)については「悪意のない間違い」と言えるでしょう。

では、いわゆる「故意」、つまり例えば別の写真であることを分かっていながら掲載して引用したような場合に「悪意のない間違い」に絶対に当てはまらないか、というと、そうとも言い切れないと思います。

もちろん、「故意」による場合は、やはり原則「悪意」、つまりここでいう研究不正に該当するような倫理的な非難を伴う不正であることが推認されるはずですから、「悪意でない」ことが例外になることは間違いありません。

例外的な事情として、例えば(あくまでも「例えば」です。今回がどうかは知りません。)、別の写真を引用した場合であっても、実験結果を左右するものではない(説明の便宜のためにすぎない)場合であったり、異なる結論に誘導する意図がなかった場合などが考えられます(科学的な知見が乏しいので、うまく例示ができませんが)。

つまり「故意」であっても「悪意がない」場合が想定できないわけではありません。

その意味でもこの場合でいう「悪意」は倫理的な意味を含んだ解釈しかできないはずです。

このブログの著者の意見は、「理系は「悪意」の意味がわかっていない!」と一刀両断してますが、私から言わせれば、この人の方がわかってません。「間違い」です。悪意があるかどうかは知りませんが。

※ 今回の研究不正疑惑について私は判断する能力を持っておりませんので、今回の投稿は本件について特定の結論や意見を述べるものではありません。

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