皆さんは「モペット」というワードを聞いたことがありますか?

モペットとは、ペダル付きの原動機付自転車を指します(MotorPedalの頭文字をくっつけた呼称です。)。

街中でフードデリバリーサービスの配達員がモペットに乗っているのを目にした方も多いでしょう。

そんなモペット、一見すると自転車のような見た目ですが、時として意外にもスピードが出ていることもあり、ビックリした経験がある人もいるのではないでしょうか。

今回は、そんなモペットが絡む事故で賠償義務を負ったモペットの運転者が、自ら加入していた保険を利用することができなかった大阪地裁令和5年12月14日の事案をご紹介します。

 

事案の概要

モペットを運転していたXさんは、自身の進行方向と同じ方向に歩くAさんを右側から追い抜こうとした際、Aさんに衝突してしまいました。

Aさんは、この衝突事故によりけがを負い、その治療費などが損害として生じました。

Xさんは、この事故について、Aさんが負った損害を賠償する責任を負います(図中①)。

ところで、Xさんは、個人賠償責任保険契約をY社との間で締結していました。
(実際の事案では、Xの父がYと保険契約を締結しておりXが被保険者となっていましたが、本稿ではその点を捨象しています。)

そこで、Xさんは、自身が負ったAさんに対する損害賠償責任について、この保険を利用してAさんへの賠償をしたいと考え、Y社に対してその利用を請求しました(図中②)。

そうしたところ、Y社は、Xさんとの保険契約上、その約款で「車両(原動力が専ら人力であるものを除く。)の…使用…に起因する賠償責任の負担に係る損害については保険金の支払対象外」となる旨の規定(以下「本件免責規定」といいます。)があったことから、これに基づき、上記事故は、これに当たるとして、保険金の支払を拒絶しました(図中③)。

これに納得がいかないXさんは、Y社に対して、その保険金の支払を求めたのが本事案です(図中④)。

争点

本件のモペットが、人力モードによって走行していた場合でも、本件免責規定によって、保険金の支払対象外となるかが争われました。

裁判所の判断

結論

大阪地裁は、本件モペットが人力モードで走行していた場合でも、本件免責規定の適用があるとして、Xさんの請求を認めませんでした。

理由

裁判所は、その理由を次のように述べました。

    • ◆本件免責規定が自ら認める例外であるところの、専ら人力を動力とする車両は、その車両の有する潜在的危険性が類型的に大きいとまではいえず、その使用等を起因として生じることのある賠償責任も、それがない場合と比べて必ずしも大きくなるとまではいえないこと
    • ◆原動力を専ら人力とする車両については、その使用等によって生じた賠償責任を補償する個別の保険制度が、そうではない車両(自動車や二輪車等)の保険制度と比べると、網羅的に設けられていないこと

といった事情が認められるので、除外事由として規定されている。

それを踏まえると、本件モペットは、

    • ◆道路運送車両法上の原動機付自転車に区分され、自賠責保険への加入が義務付けられていること
    • ◆現にモペットが抱える危険性は、原動機付自転車と同様であり、事故が起きればその責任が原動機付自転車による事故と同じように増大するリスクがあること
    • ◆本件免責規定の適用対象外となる車両は、原動力が専ら人力である車両であってモペットはそうとはいえないこと

から、走行時のモードによって除外事由該当性が変わるものではく、本件モペットは、除外事由には当たらないと判断しました。

解説

モペットは、2024111日に施行された改正道路交通法において、原動機付自転車と同じ扱いとなることが明文化されました。
改正時のニュース→(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241101/k10014626551000.html

交通の取締を行う警察としては、それが電動アシスト自転車であるのか、モペットであるのかの現場での判別が難しい面もあるようですが、法律上は、モペットは原動機付自転車と同じ交通ルールに服するのみならず、自賠責への加入やヘルメット着用などが必須となっています。
それゆえ、今現在は、Xさんが本件訴訟で主張した内容は、当然通らないものとなっています。 

個別賠償責任保険は、自動車やバイクの交通事故ではない場面で自分や家族が誰かをけがさせてしまったような場合に役立つ保険です。我々弁護士も、そのようなご相談を受けたときには、使える個別賠償責任保険がないかとアドバイスすることも多く、入っていると安心できる大切な保険です。

しかしながら、スモールモビリティが発達しつつある昨今、それによる事故の賠償を巡っては難しい問題も出てきており、本事案はそういった時代の流れを反映した事例であったともいえるかもしれません。

交通事故の被害に遭った、交通事故を起こしてしまったなど事故は突然思いもよらず降りかかります。事故でお困りの際には、是非弁護士法人ASKまでご相談ください。