ちまたで話題になっているいわゆる日大アメフト部騒動について、「加害者」である学生が記者会見する事態に発展しました。

反則した日大選手が会見、監督・コーチの指示を明言

 

学生側の見事な対応

この学生の記者会見、すべて拝見しました。

監督にそそのかされたという事実を伝えつつ、決して監督に責任転嫁してるとは思わせない謝罪術は見事でした。
よく聞けば監督のせいとしか評価できない事実を具体的かつ迫真に富んだ内容で説明しており、被害者側関学側の納得を得るに十分な効果があったと思います。

特に、明確なファウル(しかも、ホイッスルが鳴ったあとの故意によるファウルであること)を認めている点について、本心からの謝罪を感じさせるものでした(ご指摘による加筆。ありがとうございました。)

彼の朗読していたものは弁護士が作成した陳述書です。
世間では弁護士が作ったものを朗読することに批判的な目があるかも知れませんが、これは弁護士が創作した内容ということではありません。
陳述書を作成するにあたっては、微に入り細に入り、ご本人から詳細に話を聞き取りながら、時系列に整理し、必要かつポイントを押さえて作成していくものです。
完成にあたってはもちろん本人と詳細に確認して、認識と違う点がないかを念を押します。

弁護士が適切に関与することで、この学生の会見は非常に的を射たものになり、また世論を味方に付けることができました。

記者の質疑応答においても、過剰に学生に寄り添う(内田前監督に批判的な態度を取る)質問もありましたが、その誘導にも乗らず、冷静で自己の責任を強調する応答に終始していたことは非常に感心しました。
記者としては、学生の言質を取りながら内田氏に批判的な内容の記事を書きたかったのでしょうが、その挑発に乗ることなく、無事に終えることができていました。

正直、これで対日大、対内田氏との関係においては勝負あったと確信しました。

我々弁護士もお手本にしたいと思うくらいの見事な会見だったと思います。

日大側の愚かな対応

ところが、日大広報部はこのようなコメントを出したとのことです。

日大弁明「QBつぶせ」は事実写真

日大広報部は「コーチから『1プレー目で(相手の)QBをつぶせ』という言葉があったということは事実です」と認めたがものの「ただ、これは本学フットボール部においてゲーム前によく使う言葉で『最初のプレーから思い切って当たれ』という意味です」と説明。「誤解を招いたとすれば、言葉足らずであったと心苦しく思います」と弁明。言葉足らずにより「つぶせ」の捉え方の違いが招いた結果だとし、監督の指示を否定した。

ちょっと開いた口がふさがりませんでした。

以前に内田前監督が空港で会見した際、辞任は表明したものの、自身の反則の指示として一義的な解釈ができない玉虫色の説明で逃げていました。

これは、辞任表明をしつつ、それで世論が許してくれる万が一の可能性に賭けていたものだとおもいます。あわよくばうやむやにしようと。

でも、直接監督の話を聞いていた学生自身が自分の言葉で会見してしまった以上、すべての計画が雲散霧消してしまっているのです。

(隠し球があれば謝りますが)この段階において、このコメントは最悪手としか思えません。

日大が守るべきもの

すでに起こってしまったものは変えられません。

日大サイドとして最低限守るべきなのは、部の存続(これはアメフト部に限りません)、ひいては大学そのものの存続しかないと思います。

私が日大サイドから相談を受けた場合、実態はどうあれ、この学生のせいにする(学生の理解がマズかったんだということにする)のは絶対にあり得ません。
まさに危機管理の問題として、過ちを認め、再生する決意を表明するしかないとおもいます。

このプロセスを経ないと、仮に(万が一)この問題を切り抜けられたとしても、大学存続に必要不可欠な学生の募集に支障を来すことは明らかです。

体育会一流校の日大としては、スポーツ分野で優秀な学生をスカウトしてくることが不可欠であるにもかかわらず、部のトップである監督が責任を取らず、現場の学生に責任を押しつけるという評価を高校生に植え付けてしまうと、このような大学に身を委ねることのリスクしか出てこないことになります。

日大広報部のコメントを見て、大学そのものよりも内田氏の保身を選んだんだなという残念な感想を抱きました。

弁護士は目先の利益よりも長期的な評価に向けた助言をするべき

このような相談を受けた弁護士の立場としては、当該案件における勝ち負けよりも、世論の流れを見つつ、長期的な利益を目指したアドバイスをするべきだろうと思います。

もちろん、この件について私自身は報道を通じた事実関係しか知りうる立場にありませんが、将来の顧客であるこの大学を目指す若者を敵に回す対応を取るのは返す返すも最悪手だなあと。

弁護士の重要性を痛感した事件でした。

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