不貞の相手方に対する離婚慰謝料について、重要な最高裁の判決が出ました。

どんな事案?

夫Xと妻Aは平成6年に婚姻した夫婦。

男YとAは平成216月から不貞関係になった。

Xは、平成225月にYとAの関係を知る。この頃、YとAは関係を終了させる。

平成264月からXとAは別居し、平成2611月に調停、平成272月離婚成立

(時期は分かりませんが、その後に)XがYに対して慰謝料請求訴訟を提起。

原審(東京高裁)は、「YとAとの不貞行為によりXとAとの婚姻関係が破綻して離婚するに 至ったものであるから、Yは、両者を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い、Xは、Yに対し、離婚に伴う慰謝料を請求することができる。」と判断しました。

離婚慰謝料の請求はできなくなった

ところが、最高裁平成31219日判決では、
「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。 第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」
と判断しました。

あくまで、離婚に至る精神的苦痛は夫婦間で解消するべきであって、第三者は基本的に関係ないということです。

特段の事情とは?

他方、「当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情」があるときは、離婚慰謝料を認める可能性があると判断しています。

この「特段の事情」が認められる場合の具体例は今後の判断になりますが、例えば、不貞相手が直接に夫婦間に割り込んできて別れさせたような場合や、ビジネスとしての「別れさせ屋」だったという場合などが考えられます。

不貞慰謝料の請求はできる(可能性はある)

誤解のないように説明すると「当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、」とあるとおり、不貞行為そのものに基づく慰謝料請求についてはできる余地を残しています。
およそ不貞行為に基づく慰謝料請求ができなくなるという意味ではありません。

どんな影響があるか

ここからは私の予想になります。

慰謝料額に影響

これまで、第三者との不貞行為により離婚に至ったケースにおける不貞相手の慰謝料額は、離婚に至っていないケースの慰謝料額よりも高額に設定されることが多かったと思われます。これは、離婚に至っている場合、事実上、「不貞慰謝料」と「離婚慰謝料」を観念上合算していることによるものでしょう。
今後は、この「離婚慰謝料」部分を合算することは理論的におかしいことになります。そうすると、不貞相手の慰謝料は、夫婦が離婚に至っているか否かは関係がないということになりそうです(もっとも、不貞の態様として「夫婦が離婚にいたる程度に強度だったか」という意味においては影響があるかも知れません。)

時効に注意

【これまで】不貞により夫婦が離婚に至ったときは、不貞相手の離婚成立時から3年の時効期間が進行するとされていました。
これによると、何十年も前の不貞行為により夫婦が離婚に至った場合、不貞相手としては関係を解消して相当期間経っていたとしても慰謝料が認められてしまう可能性がありました(はたしてその「不貞行為により」離婚に至ったかという因果関係の問題は別にあります。)。
【今後は】不貞行為を知ったときから3年の時効期間が進行することになります(この判決でははっきり判断しているわけではありませんが、こう考えるのが論理的です。)。
このような考え方に立つと、不貞が発覚して、(離婚協議などで)3年経ってしまうと、不貞相手に対しては慰謝料請求できなくなるおそれがあります。

実務への影響はそれなりに大きいものと思われますので、今後の事例の蓄積を見守りたいと思います。