前回に続き、今回は従業員との関係で企業が行うべきコロナウイルス対策について説明します。
Q1 従業員に自宅待機や健康診断・予防接種を命じることができるか?
A1 就業規則の定めが必要です。
雇用契約上、会社に来ないで下さいとはいえますが(就労請求権の放棄)、自宅にいて下さいと命じるには、就業規則にあらかじめ定めておく必要があります(自宅待機は「お願い」にすぎません。)。
また、感染が疑われる従業員に対して、業務命令として健康診断・予防接種を命じるにも、就業規則の定めが必要です。
Q2 従業員に対して、健康情報の提供を命じることができるか?
A2 発熱の有無等を超える範囲は、就業規則や雇用契約上の定めが必要です。
個人情報保護の要請の観点から、提供を命じることができるのは、会社の安全配慮義務を果たすのに必要な範囲に限られます。新型コロナウイルスの場合で言えば、その範囲は発熱の有無等に限られ、健康全般(排便等)は範囲を逸脱するといえます。
このような場合、就業規則や雇用契約で、会社が従業員に対して一定の健康情報の提供を求めることができる旨を、あらかじめ定めておくとトラブルを予防することができます。また、就業規則や雇用契約の見直しが困難である場合は、任意で会社に報告してくれるよう、事前に情報提供の必要性を訴え、従業員の理解を得ておくとよいかと思います。
Q3 休業している従業員に対して、どのくらいの給料を支払はなければならないのか?
A3 以下のような場合分けになります。
① 従業員が労務を提供できない場合
労務を提供できなくなった事情が
ⅰ 会社・従業員のいずれの責任でもない場合:0%(民法536条1項)
ⅱ 会社の責任である場合:100%(民法536条2項)
② 従業員が労務を提供できる場合
休業が会社の責任である場合:60%以上(労働基準法26条)
コロナウイルス感染者又は濃厚接触者は、社会通念上、労務を提供することができないといえるので、会社が適切な感染防止策を講じていれば、①ⅰに該当し、「法律上は」、無給でよいことになります。
ところが、無給という処理をすると、従業員が感染や濃厚接触の事実を隠すようになり、かえって社内における大量感染のリスクが増すおそれがあります。
そこで、事業継続上の政策として、感染者や濃厚接触者に対しても100%の給料を支払うので正直に申告するよう宣言することも方策の1つです。
また、過去の類似事例では、無給とする場合であっても、当該従業員に有給休暇などを利用して頂き、生活に困らないように配慮する事業者が多数でした。今回は、補助金などもできる限り利用しながら対策を講じていくとよいでしょう。
Q4 感染リスクを理由に出社を拒否する従業員に出社を命令できるか?
A4 出社を命じるには、十分な感染防止対策の実施が必要です。
社員の労務の提供を命ずるには、会社による感染防止対策の実施が必要です(民法493条)。
ですので、会社が十分な感染防止対策を実施した上でならば、当該従業員に出社を命じることができます。
Q5 いったん従業員を解雇し、従業員には失業保険で対応してもらって、ほとぼりが冷めたら再雇用するという方法はどうか?
A5 大変危険です。このような方法はとらないでください。
失業保険については、偽りその他不正な行為によって支給を受けた場合には、給付を受けた金額は全額返還しなければなりません。また、悪質な場合には、支給を受けた金額の最高2倍の金額の納付が命ぜられます。そもそも、このような行為は、詐欺罪(刑法246条)に当たる行為です。
「解雇」された従業員から、解雇無効や地位確認の訴えなどを起こされることになり、大混乱になる可能性があります。
つづきは↓