法律相談でよくある相談者からの質問で裁判する場合に、相手方に弁護士費用を請求できますかという質問がよくなされます。

 端的にいうと、原則として自分が依頼した弁護士の弁護士費用は自己負担であり、相手方に請求することはできません。日本では裁判をするのに弁護士を委任する義務はなく、本人で対応できることが主な理由です。

弁護士費用を相手方に請求できる場合

 ただし、一部例外があります。

 最高裁昭和44年2月27日判決

相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」

として不法行為(交通事故など)に基づく損害賠償請求について裁判の認容額の1割程度を損害として認めており、裁判実務となっています。

 ここで注意すべきは、かかった弁護士費用全額を相手方に請求することができるわけではないということです。

 また最高裁平成24年2月24日判決

 労災事故において安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求についても、不法行為同様、弁護士費用を損害として認めています。

 もともと労災事故は不法行為と安全配慮義務違反のいずれでも法的に主張が可能で、昭和44年判決の理屈がそのまま当てはまる訴訟であることから、昭和44年判決の延長線上と捉えることができます。

最高裁昭和44年判決の理屈からすると、不法行為、安全配慮義務違反の裁判以外の裁判についても、弁護士費用を相手方に請求できることを最高裁判所がすべて否定するものではありません。

債務不履行の場合(最高裁令和3122日判決)

このような状況のなかで、近時、土地の売買契約の買主が売主に対して債務の履行をもとめるための訴訟提起等に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することができるかにつき、最高裁判所の判決が出ましたので紹介いたします。

結論としては、弁護士費用は認めませんでした。

事案

不動産業者Aが営業を停止して代表者が行方不明となったため,債権者XがAと土地の売買契約を締結していた買主Yらに対し,差し押さえた売買代金債権に基づき,合計2500万円あまりの支払いを求めた取立訴訟

Yらは,Aが売買契約上の債務の履行を怠り,その履行を求めるための訴訟提起を弁護士に依頼したことによる弁護士報酬等を負担したから,Aに対して損害賠償請求権を有しており,同債権との相殺により,売買代金債権はすべて消滅したとして争った。

1 Yらは9200万円で土地をAから購入する売買契約締結
  手付金600万円支払い。

2 Aの代表行方不明

3 Yらは,Aの債務の履行を求めるために弁護士に委任。
 ・土地の処分禁止の仮処分
 ・所有権移転登記請求訴訟
 ・建物収去土地明渡訴訟
 ・代替執行の申立
を行い,結果として土地の引き渡しと登記を得た。

 土地に設定されていた担保権抹消,土地の測量等で弁護士報酬とは別に7700万円を負担した。

原審(大阪高裁平成31年2月1日判決)

Yらが負担した7700万円の費用の他,弁護士報酬相当の債務不履行に基づく損害賠償請求権があるとし,相殺を認め,Xの請求を棄却。

最高裁(最高裁令和3122日判決)

土地の処分禁止の仮処分・所有権移転登記請求訴訟・建物収去土地明渡訴訟・代替執行の申立の弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償請求として請求できないとし,残売買代金8600万円から,上記費用7700万円を差し引いた900万円の限度で請求を認容。

理由

① 契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは,不法行為 に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり,侵害された権利利益の回復を求めるものではなく,契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。

② 契約を締結しようとする者は,任意の履行がされない場合があることを考慮して,契約の内容を検討したり,契約を締結するかどうかを決定したりすることができる

③ 土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続 をすべき債務は,同契約から一義的に確定するものであって,上記債務の履行を求める請求権は,上記契約の成立という客観的な事実によって基礎付けられるものである。

このように土地の売買契約の買主が売主に対して債務の履行を求めるための訴訟提起等に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求する場合には弁護士費用は認められませんでした。

当該事案は土地の売買契約等の事例ではありますが、債務の履行請求等については弁護士費用の請求は否定的な判決となりました。

他方で最高裁は、
契約を締結しようとする者は,任意の履行がされない場合があることを考慮して,契約の内容を検討したり,契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。」
  としています。

 これは契約締結の際の契約条項で弁護士費用は合理的な金額であれば、債務不履行に関しての弁護士費用につき不履行をした当事者に請求可能な条項を入れることも可能であるとも受け止め可能です。

 (ただし、企業と企業の契約のように対等な契約が可能な場合に限られるでしょう)

 またマンション管理規約などでは、管理費滞納などの請求に関し、弁護士費用を滞納者負担とする規定を設けていることも少なくありません。

 契約条項で弁護士費用について条項を規定することも検討が必要です。

契約締結段階から弁護士に相談することが大事になってきますね。

(弁護士竹内克己)

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