皆さん、犬や猫など動物はお好きでしょうか。犬や猫を飼っている方、猫カフェに遊びにいくという方、保護団体から譲渡を受けようとする方など犬や猫といった動物たちと自分なりの関わり合いをされている方が多いと思います。

とはいえ、言葉が通じない以上、動物とのふれあいの中でどうしても噛まれたり引っかかれたりといったことは避けがたいもの。今回ご紹介する事例は、保護団体の中でボランティアスタッフの方が噛みつかれてケガを負い、団体代表者と行政を相手に訴えた裁判例(宮崎地方裁判所令和3113日判決・控訴棄却)です。

1 事案

(1)登場人物

被告Y1:宮崎県

被告Y2:本件団体の代表者
(※本件団体=団体Z=犬猫の保護活動に関わる一般市民を支援することにより、犬猫の生命と幸せを守ることを目的とする権利能力なき社団[1]

原告X:本件団体の活動にボランティアとして活動していた女性

(2)経緯

 本件団体は、Y1と犬猫の譲渡推進事業に関する業務委託契約を締結して、Y1が設置した譲渡保管施設(本件施設)において、譲渡会等の委託業務を行なっていました。そして、本件団体は、①譲渡動物の飼養、施設の衛生保持、飼養期間の延長等に係る事項が定められた犬猫の譲渡推進事業実施要領及び②Y1の指示に従って委託業務を処理しなければならないことがこの本件業務委託契約の契約内容として義務づけられていました。
 他方で、この本件業務委託契約には、譲渡動物の所有権を本件団体に移転する旨の定めや譲渡動物が飼養期間又は委託期間を経過しても譲渡されなかった場合に関する定めは規定されていませんでした。

 また、Y1は、健康状態や人との友好度等を審査する譲渡可能判定に合格した犬猫のみを本件団体に引き渡しており、本件事故が発生するまで、引き渡された譲渡動物がY1に返還された例はありませんでした。
 その上で、Y2は、Y1から引き渡された犬猫の所有権が本件団体に移転されておらず、期間内に譲渡できなければ犬猫をY1に返還すべきであり、そうして返還された犬猫は後に殺処分される可能性があることを認識していました。

 また、本件団体は、独自の判断でY1から引き渡された犬猫を希望者に譲渡しており、譲渡の際に譲受人から受領した譲渡費用等を本件団体の運営費等に充てていました。

 平成286月(事故発生)

本件施設内での作業を終えて帰宅の準備をしていたXが、ケージから逃げ出した柴犬(本件柴犬、それまでにY1から業務委託契約に係る譲渡動物として引渡しを受けていた個体です。)に噛まれてしまうという事故が発生しました。

 Xは、この事故により、19日間にも入院のほか7日間の通院、さらには後遺障害[2]137[3]相当の症状が残ってしまいました。

 この事故を受け、本件団体は、事故後、Y1に対し、ケージのロックが不十分であったために本件柴犬が逃げ出した旨の事故報告書を提出しました。

 ところで、本件柴犬は、Y1における譲渡可能判定に合格しており、本件団体の飼養開始後も咬傷事故を起こしたことはありませんでした。しかし、ケージに入れられる際に、咬みつく素振りをみせることがあり、そのため、Y2は、本件団体構成員やボランティアに対し、口頭で、自身を含む動物の扱いに長けた者のみが本件柴犬を扱うよう伝えてはいましたが、この扱いは実施されていませんでした。

 このような経緯をたどった後、Xは、Y1に対しては、国家賠償法11項、同法21項又は民法7181項に基づいて損害賠償を、Y2に対する民法709条、7152項又は7182項に基づいて損害賠償を求めました。求めた賠償の中心的な中身は、後遺障害逸失利益[4]等の損害賠償金784万円余りです。

2 裁判所の判断

以上の事案について、裁判所は次のような判断を示しました。

(1)Y1について、本件団体と業務委託契約を締結することにより、自己に代わって本件柴犬を含む譲渡推進事業に係る犬猫を保管する者として本件団体を選任し、これを補完させていた占有者に当たると判断して、動物の占有者としての責任を認め、請求全額を認容しました。

(2)本件団体の代表者であるY2についても、本件柴犬の管理者であるとし、本件柴犬の習性を知りながら、それに合った対策をとっていなかったのであるから、相当な注意を持って本件柴犬の管理をしていたとはいえないとして、動物の管理者としての責任を認めました(上記(1)との連帯責任)。

(3)次に、裁判所がこのように判断した理由をみていきましょう。

 まず、本件業務委託契約は、一定の飼養期間及び委託期間を定めて犬猫の飼養、譲渡等を委託するものであることです。
 次に、本件業務委託契約には譲渡動物である犬猫の所有権を本件団体に移転する旨の定めはなく、Y2は、本件団体に引き渡された譲渡動物の所有権移転を受けていないことを認識していたことを指摘しています。
 それから、本件事故後、本件施設を閉鎖する際にY1がとった対応によれば、本件業務委託契約に係る犬猫が譲渡されずにY1に返還された場合の処置は、Y1が決定することになっていたと認められることも挙げています。
 これらのことから、Y1が「占有者」に当たり、Y2が「占有者に代わって動物を管理する者」に当たると判断しました。
 また、他方で、本件事故に至るまでにY1に返還された犬がいなかったこと、本件団体が独自の判断で犬猫を譲渡していたこと等の事実は、上記認定を左右するものではないとしています。

3 ひとこと

上記民法718条のとおり動物の占有者や占有者に代わって動物を管理する者は、動物が引き起こした事故による損害について賠償する責を負います。そして、この責任は、解釈上、無過失責任にも近いもの(講学上、中間責任といわれています。)と考えられています。
 かわいい犬や猫とはいえ、そこは動物であり突発的な事故などが生じてしまう可能性があることを常に念頭に置いて、共存を図っていきたいですね。

[1] 権能なき社団とは、団体(人の集団)ではあるものの株式会社とか一般社団法人などといった法人格を有していない団体のことをいいます(例、サークル、同好会など)。
[2] 後遺障害については、以前こちらの記事で簡単に説明をしました。
[3] 一手のおや指の指骨の一部を失ったものと同視しうるような障害。
[4] 後遺障害逸失利益については、前掲注1の記事を参照。

参考条文

国家賠償法
第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② (省略)

第2条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
② (省略)

民法
(動物の占有者等の責任)
第718条 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。 

 

(弁護士 柴田剛)

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