企業が取引先等からの入金が先の場合、取引先に対する債権を現金化する方法としてファクタリングが機能していますが、利息制限法や出資法の脱法行為として利用する悪徳業者がいることも確かです。
つまり利息制限法や出資法では貸金の高金利を制限していますが、債権譲渡については譲渡金額に制限がないため、本当は貸金なのに債権譲渡の形式をとることで脱法的に高金利を得ようとする業者が存在するのです。
今回紹介する裁判例は、ファクタリング業者が行った取引が出資法にいう「金銭の貸付け」にあたり、貸金業登録を受けずに商売として行い、出資法で規定する金利を大幅に上回る利率での貸金であったとして、債権譲り受け行為が不法行為に当たるとした事例です。
事業者向けのファクタリング取引(債権譲渡)が実質的に出資法に違反し、債権譲渡人から金員の支払いを受けた債権譲受人の行為が不法行為にあたるとした事例(名古屋地裁令和3年7月16日判決(確定))
事案
1 Aは商業施設Bの一画を賃借し、売上を一旦Bに預託し、一定期間後、賃料を差し引いた残金をAに返金する(本件債権)と契約がなされていた。
本件債権は他者に譲渡してはいけないという譲渡禁止特約付きだった。
2 Aはファクタリング業者Yに対し、本件債権5444万円分を4900万円で譲渡し、4900万円の交付をうけた。譲渡契約の主な内容は次のとおりです。
① 「売買」を原因とする債権譲渡登記を具備
② 実質的な金銭消費貸借を目的とする債権譲渡契約等でないことを確認する文言
③ AはBの資力を担保しないこと
④ Yは債権譲渡登記事項証明書をBに交付することを猶予することでき、その場合AはBから本件債権の代金を代理受領することを無償で引き受けること
⑤ AはYに対し、財産・経営・業務状況についてYが請求したときに直ちに報告すること
⑥ AはYに対し、財産・経営・業務状況について重大な変化があったときに報告すること
⑦ Bより譲渡禁止特約について主張された場合、AはYに不利益が生じないよう対応すること
3 AはBから本件債権の代金を受領し、AはYに5444万円をA・Yの契約締結から16日以内に支払った。
4 Aには本件債権を回収後14日後に破産手続開始決定がなされた。
5 破産管財人XはYに対し、本件ファクタリングは実質金銭消費貸借であり出資法、利息制限法に違反し、公序良俗に反するものであるから、不法行為にあたり5444万円の返還を求めた。
判決
判決では、Xの請求を認めました。
1 上記契約条項④に基づいてAが代金を回収し、Yに支払っていたこと、⑤⑥⑦の条項が存在することからすると、YはBから直接支払いを受けることが予定されておらず、債権の売買ではなく担保付きの消費貸借契約と評価することと整合する。
2 ③の条項からすると、Bの無資力のリスクをYが負担するので、金銭消費貸借契約と整合しないようにも思えるが、BはAより売上を預かり賃料を差し引いて返還するものでBの手元に資金があると考えられること、債権譲渡日から本件債権の支払日まで最長で16日間であり、譲渡債権はBの預託金の一部であることから、Bの不履行の可能性は極めて低いことから、不履行の可能性を重視することは相当でない。
よって本件は実質的に「手形の割引、売渡担保その他これに類する方法」として貸金業法や出資法にいう「金銭の貸付け」に該当する。
3 Yは貸金業の登録を受けていない。本件では年利265%~506%で出資法の上限金利を大幅に超える金利で刑事罰が課されうる強度の違法性を有する行為である。
本件行為は公序良俗に反し、Aから金員の支払いを受けたことは、その全体として不法行為にあたる。
4 契約に基づきYがAに交付した4900万円は不法原因給付にあたるから、その金額を控除することは民法708条に反することから、Aが支払った5444万円全額は損害となる。
まとめ
この事例ではファクタリングが公序良俗に違反して不法行為にあたると判断し、かつ当初交付した4900万円の差し引きせず、支払い額全額の損害を認めています。
ファクタリングが正常に機能する場合には、経済の潤滑油となりますが、この事例のような実質的な貸金業として違法な金利を取得する手段として用いる悪徳業者がいることも事実です。
ファクタリングを利用される場合には、悪徳業者に引っかからないよう注意しましょう。
なお、この件ではYは答弁書を提出するものの実質的な訴訟対応をしていないようです。その後、実際にXがYから回収ができたかどうかは確認できません。
(弁護士 竹内克己)
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