今はインターネットで気軽にヤフオクやメルカリのように個人間でオークションを楽しめますが、少ないながらもトラブルもあるようです。
今回紹介する裁判例は、オークションサイトで3番目の金額を付け、1,2番目の入札者が落札者削除の方法で取り消されたため、繰り上がって入札した者が、出品者に対し、出品物の引き渡しを求めたものの、出品者から引き渡しを拒絶され、さらに出品者が落札者削除した事案で、落札者が出品者に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求をした事例です。
横浜地方裁判所令和4年6月17日判決(確定)
事案
① ヤフーオークションで被控訴人Yが腕時計を出品し、控訴人Xが92,000円で入札。
② 一番高い金額で入札した者をYが「補欠を繰り上げる」を選択したまま、落札者を削除し、2番目に高い金額で入札した者が繰り上がったものの、同様に落札者を削除したため、Xが補欠落札者として繰り上がった。
③ Xは本件腕時計の落札に同意するか確認されたため、同意。
④ Xはヤフーかんたん決済で送料と腕時計の代金を支払い、「支払い完了しました。どうぞよろしくお願いします」とYに連絡。
⑤ Yは取引メッセージで「この価格では売れません。常識的な価格があると思います。終了時間を間違えました。当方のミスです」と連絡。
⑥ XはYに対し、取引メッセージで「契約の不当解除は受け入れられません。契約の履行を請求します」と連絡。
⑦ YはXに対し、Xの都合によるキャンセルとしてXを落札者として削除した。
⑧ XはYに電話で本件腕時計の引き渡しを求めた。
⑨ 時計の引渡しがないため、Xが本件訴訟提起。
1審判決(保土ケ谷簡裁令和3年10月28日判決)
XはYに対し
①債務不履行に基づく損害賠償として逸失利益107,480円
②不法行為に基づく損害賠償として慰謝料30,000円
を請求したのに対し、1審は②については認めたものの、①については認めなかった。
本件判決
争点として次の4点をあげた。
①売買契約の成立時期
②錯誤の有無
③重過失の有無
④損害発生の有無
①については、ヤフオクのガイドライン等で売買契約の成立時期を明示した規定は存在しないため、XYの取引について取引態様等に鑑みて判断するのが相当とし
ア Yの出品時に取引条件について具体的に定められており、落札後の取引条件について交渉することは予定されていなかったこと
イ Yは入札可能期間が終了するまで本件時計の出品を取り消さず、「補欠を繰り上げる」が選択されている状態で第1,2落札者を削除してXを補欠落札者として繰り上げ、Xが落札に同意したこと
以上のことから、Yが繰り上げの操作をしたときに売買契約の申込みの意思表示をしXが落札に同意したことで売買契約に承諾する意思表示があり、売買契約が成立したものと認めるのが相当とした。
②については、Yの意思として第1,2落札者を削除し、Xに対しても即座にその値段では売れないと連絡していることから、Yの意思表示は錯誤に基づくもの、重要なものと認められるとした。
③については、出品者は繰り上げがあることを確認したうえで再度、落札者を「削除」する旨の表示を押すことが求められることが認められ、Yは2度明確に補欠落札者が繰り上がることを示されながら、これを看過したことになるとして、Yには重過失があり、錯誤による契約の取り消しはできないとした。
④については、Yは最低本件時計を答弁書にて15万円で売却しようとしていた旨を主張し、15万円の価値があることを認めていることから、15万円から落札金額と送料の合計である92,520円を控除した残金57,480円の損害が発生したと認められる。
とし30,000円の慰謝料と逸失利益57,480円の損害が発生したとしてXの請求の一部を認めた。
感想
ネットオークションも売買契約であり、出品者の売買の申込と落札者の売買の承諾で契約が成立します。
本判決は、ヤフオクの取引態様等を分析したうえで、出品者が「補欠繰り上げ」を選択した上で、落札者を削除したことを申し込みとし、補欠繰り上げ者が落札者として同意したことが売買の承諾として売買契約が成立したとしました。この判断は常識的な判断と思われます。
また出品者としても「補欠繰り上げ」の確認が2度されたのにそれを看過して、本件Xを「補欠繰り上げ者」として繰り上げてしまったことが、重過失と認定されており、これについても常識的な判断と思われます。
ヤフオクやメルカリは気軽に売買ができるツールとして用いられますが、契約は契約であり、出品者も落札者も自己の意思とは異なる内容で出品したり、落札したりしないよう、注意が必要です。