裁判で勝ったのに、相手方に差し押さえる財産がなくて回収に困ってる。なんとか回収しようと調べてみたら、親名義の不動産があるではないか!たしか相手の親は既に亡くなっているはず!
こんな状況になれば、この不動産から回収したいと思うのは世の常ですよね。
この不動産からなんとか債権を回収したい、そのためには不動産を勝手に処分されては困る。そんな考えから、この不動産の処分を仮に禁止することにチャレンジした事案がありました。
審判前の保全処分(遺産分割)申立却下審判に対する抗告事件(東京高等裁判所決定令和3年4月15日)
【事案】
本件抗告審の相手方(一審相手方)に対して金銭債権を有する抗告人(一審申立人)が、債権者代位権を行使して、相手方が相続した遺産につき遺産分割調停を申し立て、家事事件手続法(「法」)105条1項及び200条2項に基づいて、遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分として、遺産中の特定の土地につき、処分禁止の仮処分を求めた事案
【原審】さいたま家裁
抗告人が金銭債権者であることから上記土地について係争物に関する仮処分(処分禁止の仮処分)の被保全権利を有しているとは認められないことを理由に、本件申立てを却下
【抗告審】本決定
①本件が債権者代位に基づくこと及び審判前の保全処分が本案と密接に関連し民事保全とは異なる面を持つ特殊な保全処分であることから、その被保全権利の主体は、抗告人自身ではなく、抗告人の債権者代位の対象となっている相手方であり、また、その権利は、既存の権利ではなく、本案である遺産分割の終局審判で形成される具体的権利である、
②審判前の保全処分の発令要件としての本案認容の蓋然性の内容は、係争物に関する仮処分としての処分禁止の仮処分が係争物についての給付請求権を保全するために発せられる仮処分であることから(法115条、民事保全法23条1項)、保全処分の対象である上記土地につき相手方への給付が命ぜられる見込みがあることと解される、
③本件で、抗告人が、本件の調停不成立後の審判手続移行後の終局審判で上記土地につき相手方への給付を命ずることとなる見込みについて何ら主張・疎明していないから、被保全権利を含む本案認容の蓋然性についての疎明があるとはいえない
→ 結論としてさいたま家裁の却下決定を維持
コメント
債権者としては、この土地を売ってその中から回収をしようと考えていました。
ところが、この決定においては、後の遺産分割審判で「相手方が」この土地の所有権を取得する蓋然性(取得する見込みが極めて高いこと)を債権者の側で主張、疎明できていないとして却下されてしまいました。
そもそも、(親族でも何でもない)債権者の側で、相手方がこの不動産を取得する見込みなどわかるはずもなく(さらに言えば、相手方が「いらない」と一言言えば蓋然性などなくなってしまいます)、およそ無理な要求ということになります。
民事保全としての仮差押え、仮処分の手続と、「審判前の仮処分」は性質が異なる手続であることをはっきりさせた事案であるといえます。
(弁護士 伊藤 諭)