今回は、遺言によって相続分がないものとされた相続人が遺留分侵害額請求権を行使した後、特別寄与料の請求を受けた場合に、特別寄与料の負担をするかが争われた最高裁の決定を見ていきます。

最高裁第一小法廷決定令和5年10月26日の事案は次のとおりです。

 

事案の概要

Aが亡くなり、相続が発生しました(民法882条)。
相続人は、Aの子であるBとYです。そして、Bには配偶者Xがいました。

被相続人亡Aは、遺言を残しており、その遺言には、「財産全部をBに相続させる。」と記されていました。
その結果、YはAの相続人ではあるものの相続分はなく遺産を取得することができませんでした。

そこで、Yは、Bに対して、自身の遺留分が侵害されているとして遺留分侵害額請求権を行使しました(民法1046条1項)。

他方、Aの「親族」であるXは、Aの生前、Aに「無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより」Aの「財産の維持又は増加について特別の寄与をした」と主張して、Aの相続人であるYに対して、特別寄与料の請求をするため家庭裁判所に特別寄与料の請求を求める旨の調停を申し立てました(民法1050条1項)。

そうしたところ、家庭裁判所は、この申立てを却下しました。
そこで、Xは、この裁判所の決定に不服を申し立てました。


問題の所在

まずは、平成30年の民法改正で新設された、被相続人の親族による特別寄与料の請求に関する条文を見ていきましょう。

第千五十条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

そして、上に見た条文の第5項は以下のとおりです。

 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

特別寄与料の請求があった場合、寄与料の負担を負う側である相続人が複数あるときは、その負担の割合について、法定相続分等に応じるものと定められています。
そこで、本件でも、特別寄与料は相続人BとYとが負担することになりそうですが、上で見た第5項は、その相続人の一部の者が遺留分侵害額請求権を行使した場合に、相続人間での特別寄与料の負担割合についてどうすべきかまでは定めていません。

本件ではそこが問題となりました。

裁判所の判断

では裁判所はどう判断したのでしょうか。

一審、二審の判断

一審、二審は、遺言により相続分がないものと指定された相続人(=Y)は、特別寄与料を負担せず、このことは当該相続人(=Y)が遺留分侵害額請求権を行使したとしても左右されないと判断し、Xの本件申立を却下しました。

最高裁の判断

最高裁は、遺言により相続分がないものと指定された相続人(=Y)は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しないとして、それまでの一審、二審と同様の判断を示しました。

判断のまとめ

結局、Xは、中身の判断を受ける前に、却下=門前払いの判断で負けてしまいました。
なぜでしょうか。裁判所の考え方を見ていきましょう。

解説

特別寄与料の請求についての制度設計

もう一度、特別寄与料の請求に関する条文の第5項を示します。

 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

ここで引用されている、民法900条から902条というのは、法定相続分を定めた規定と遺言によって相続分の指定ができることを定めた規定です。

このように、特別寄与料の相続人間での負担割合を法定相続分等に応じたものとした理由は、次のように考えられています。

①特別寄与の制度が、被相続人の財産の維持又は増加に寄与したことを理由とするものなので、その負担は相続人が相続分に応じて負うとするのが公平である

②相続分の指定があるのであれば、それに応じて負担するとするのがやはり公平である

③仮に、特別受益や寄与分(ここでいう寄与分は、今回問題となっている特別寄与制度とは別のものです。)を踏まえた具体的な取り分を基に特別寄与料の負担割合を決しようとすると、特別受益や寄与分等の判断を経なければ特別寄与料の負担割合を決めることができず、紛争の複雑化、長期化が懸念される

実質的理由

遺留分侵害額請求権を行使した場合には、上記③のように、負担割合の算定に複雑さが入り込むおそれがあったり紛争が長期化する可能性があったりするといえます。
そうであるとすると、制度設計に反してしまうおそれがあります。そのため、裁判所は、上記のとおり、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、相続分の指定により相続分がないとされた者は、特別寄与料の負担を負わないとしたものと考えられます。

 

まとめ

特別寄与料の請求という最近の法改正により創設された規定に関する最高裁の判断を紹介しました。
特別の寄与については、いかなる寄与があったのかという見極めやそれについての立証のあり方など注意すべきポイントが多々あります。特別の寄与ひいては相続などについて、ご不明な点がありましたら、お気軽に弁護士法人ASKまでお問い合わせください。